10年以上前から、総合病院精神科の危機が叫ばれてきた。大学病院精神科を含めた精神科を有する総合病院は全国で有床、無床あわせて約800あるが、毎年のようにそのどこかで精神科が閉鎖されるというニュースが流れたのである。総合病院精神科は、病院の一診療科としての機能を超えるさまざまの役割を担ってきた。救急医療、身体合併症医療、リエゾン・コンサルテーション、緩和ケアへの参画などである。いずれも今日の基幹総合病院にとっては標準スペックというべき機能である。しかも、総合病院精神科での治療を要する患者は、疾病構造の変化や高齢化にともなって増加の一途を辿っている。にもかかわらず、精神科をもたない総合病院が今なお主流であり、精神科は無床で1人医長という施設も多い。精神病床の総数32万床余に対して、総合病院精神科の稼働病床数約1万4千床(2016年)という極端な少なさ、そして都市部への偏在が、日本の精神科医療のアンバランスな構造を象徴している。総合病院が精神科の開設(もしくは維持)に及び腰になる最大の要因は医療経済であると言ってよい。また常勤の精神科医が集まらず、定着しにくいことも大きな問題である。総合病院精神科は業務が多岐にわたって忙殺され、バーンアウトしやすいと言われる。近年、国も総合病院精神科の危機が医療政策全体の喫緊の課題であるとの認識をもつようになってきた。その反映として、総合病院精神科に有利な診療報酬の新設や増額が少しずつではあるがなされてきた。こうしたことから、総合病院精神科の苦境はようやく底を打った、との見方もある。危機を脱したとまでは言えなくとも、明かりが仄見えるところまでは来たと言ってよいのだろうか。現状分析に加えて、新たな課題や将来展望までを射程に入れ、地域保健医療の重要なリソースとしての総合病院精神科を改めて考える特集としたい。
【目次】
[巻頭言]岡崎伸郎
【座談会】小石川比良来+野口正行+佐竹尚子(司会)
【特集論文】高田知二/佐藤博俊/吉岡隆一/東谷啓介/岡崎伸郎/
【視点1】中島直「日弁連人権擁護大会決議とその周辺(仮)」
【視点2】有我譲慶「コロナ禍であぶり出された日本の精神医療の構造的問題」
【コラム】熊倉陽介
【連載】森山公夫「精神現象論の展開」/相澤加奈「リエゾン精神看護事例検討会」/塚本千秋「バンダのバリエーション」
【リレー連載】木村朋子「東京精神医療人権センターから」
【書評】菊池孝「精神療法の人間学」(井原裕著)
【紹介】高岡健「反延命主義の時代」(市野川容孝ら編著)
【投稿論文】中田駿「三枚橋病院私史(後編)」
【編集後記】佐竹直子
ISBN9784904110287 (税込1,870円)