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【次号予告】第5次「精神医療」第17号

特集 生き延びるためのインターネット

[責任編集] 太田裕一+熊倉陽介

 

 2024年アメリカ大統領選挙は共和党ドナルド・トランプの再選に終わった。トランプの勝利にはさまざまな要因が考えられるが支持者であるイーロン・マスクのX(旧twitter)、TikTok等SNSの宣伝も大きな要因の一つである。日本でもパワーハラスメントを疑われ不信任決議を受け失職した県知事選で、斎藤元彦氏が再選されたが、投票者の意思決定にあたってYouTube、X等の動画サイト、SNSによる情報がTV等のジャーナリズムによるものを越えたと報道された。2024年11月23日現在は、広報を担当したという広告代理店社長の書き込みから公職選挙違反の疑念が再びSNSを駆け巡っている。元よりSNSは情報源を限定することによって、歪んだ情報を信じ込ませるための有効なツールとなっている。アメリカの富裕層による児童誘拐をトランプが救うと信じるQ-アノンや、ワクチン接種者に近づくだけで悪影響を受けるといった荒唐無稽な反ワクチンデマを信じ込む人を見つけるのは難しくない。

 コロナ禍によって、急速に私達の生活に浸透したオンラインコミュニケーションは、ヴァーチャルな世界への移行期にあって、大きな混沌と深淵の扉を開けてしまった。しかしながら、それは私達の世界がすでに持っていた良さと歪みが、インターネットの持つ即時性によって速度を増して拡大したものに過ぎない。

 対面による丁寧な診療や精神療法が価値を持つのは当たり前であるが、それは混雑した外来の待合室や、高額な精神療法の料金とセットである。インターネットによって遠隔地から診療・精神療法を受けることで、待ち時間や交通費が一挙に削減されユーザーにも大きなメリットを与えうる。一方で、金儲けだけを考えた専門家が効率よくユーザーを搾取する道具ともなりうる。

 今回の特集では自殺予防やコミュニティメンタルヘルスの広報の手段としてのインターネットや、遠隔精神療法・スーパーヴィジョンやアバターを用いた仮想空間での精神療法の可能性、といったインターネットによって開かれる光の部分と、デマや陰謀論などSNSの負の集団力動、オンラインカジノの危険性などの闇の部分、両方に焦点を当てたいと思う。

 テクノロジーによって開かれてしまった扉はもう閉ざされることはない。私達専門職、ユーザーも含め、あらゆる人々がインターネットのコミュニケーションがむしろデフォルトとなっていく世界を、この危険な道具を使いこなすことによって生き延びていかなければならない。

≪目次≫【巻頭言】太田裕一/【特集】[座談会]生き延びるためのインターネット…太田裕一+熊倉陽介+揖斐衣海+北原祐理+藤居尚子/[論文]太田裕一+熊倉陽介+加藤隆弘+田尻智哉+田中紀子+藤居尚子/【連載・コラム等】★★★記載★★★                        

/【編集後記】熊倉陽介


2025年4月20日刊行予定