成年後見制度は、2000年、民法を改正してそれまでの禁治産制度・準禁治産制度に替わる形で成立した。自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーションといった新しい理念を取り入れて導入したものとされる。しかし、その実態はどうであろうか。「自己決定の尊重」がうたわれながら、現実の運用は後見類型が多数を占め、本人の意思が曲がりなりにも反映され得る保佐・補助が利用されない傾向は顕著である。申立件数をみると2005年に施行された介護保険との関連があると思われ、本人のためというより周囲の者のための利用であった可能性はないだろうか。老人施設は施錠された空間であることも多く、権利擁護は手薄である。また、本来鑑定を要するとされる後見類型、保佐類型でも、多くが診断書で処理され、鑑定を実施する率は年々減少している。後見人等による不正の報告もあとをたたない。
日本政府は、「重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されてい」ないと認識し、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」を2016年に成立・施行させ、「成年後見制度利用促進会議」および「成年後見制度利用促進専門家会議」を設置し、多岐にわたる議論を行っている。実務上重要な論点が多数含まれている。最高裁判所は、2019年に、それまでは専門職の選任が推奨されていた後見人につき、ふさわしい親族がいればそれを後見人に選任するのが望ましいとの見解を示した。
利用促進が目指されている一方で、「障害者権利条約」との関連も気になる。国際連合・障害者の権利に関する委員会の総括所見では成年後見制度廃止を強く示唆する表現が列記されている。日本でもこれを強く意識した「成年後見制度の在り方に関する研究会」が立ち上げられた。つまり、今の日本では、政府主導で、成年後見制度を推進する会議と、その廃止を示唆した見解を強く意識した会議が、同時に開催されている。
この問題と大きく関連するのが意思決定支援であり、これについても種々の論考が見られる一方、「総括所見」では政府の考えへの懸念も表明されている。
次号では、成年後見制度、および意思決定支援に関連する諸問題について広く扱う。課題は広く、運用や今論じられていることの全体像をつかむことは困難である。各論者には、重点を置いて論じて欲しいテーマを提示した上で、関連する事項も含め広く自由に論じてもらうことを依頼している。
《目次》【巻頭言】太田順一郎/【特集】[座談会]成年後見制度の現状と課題…桐原尚之+上山泰+中島直+太田順一郎/[論文]齋藤正彦+横藤田誠+岡野範子+西尾史恵+曽根直樹+齋藤敏靖/【連載・コラム等】[連載コラム]「精神科医を辞めてみました 第2回」香山リカ/[連載]バンダのバリエーション〈11〉塚本千秋/世界の果ての鏡〈1〉太田裕一/[リレー連載]精神科病院に風を吹かせる弁護士たち(第5回)採澤友香/[書評]『心の臨床実践』近田真美子/[紹介]『ADHDの僕がグループホームを作ったら、モヤモヤに包まれた』橋本達志/【編集後記】中島直
2023年10月20日刊行