第10回日本難病医療ネットワーク学会開催によせて
この度は第10回日本難病医療ネットワーク学会の大会長を拝命し大変光栄に存じます。
本学会の前身である研究会時代にも2010年に第7回日本難病ネットワーク研究会を横浜にて開催させていただきました。当時の記録を見ると参加者は215名となっておりましたが、少人数ながらそれはそれで和気あいあいとしたよい会であったと思います。楽しい懇親会もありましたし、人のつながりという意味でのネットワークにも一役買ったのではないでしょうか。
その後研究会が学会となり、会員数も増え、充実した大会になってまいりました。その間、難病分野の大きな変化として2015年の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)の施行があり、特定疾患時代の56疾病から現在では338疾病にまで拡大しました。難病法の設立にあたっては2008年~2010年にかけて「難治性疾患の医療費構造に関する研究班」の主任研究者を務めさせていただき、様々な医療費に関する分析を行い、法律制定に寄与いたしました。本大会の特別シンポジウムでは「難病医療ネットワークのこれまでと今後」と題して当時共に研究をしていただいた、各分野のレジェンド(失礼ながら現役でご活躍ではありますが、すでに偉業を達成された偉大な先生という意味でこのように呼ばせていただきました)の先生方からもお話を頂くことになっております。
一方、小児慢性特定疾患制度は2005年に児童福祉法の改正により法制化されておりましたが、2015年には「児童福祉法の一部を改正する法律」によりさらに拡大し、現在では16疾患群788疾病(包括的病名を除く)が対象となっています。難病法よりも福祉的側面の強い制度であり、両者は異なる面もある中で、昨今の医療の発展により成人期を迎える患者も多くなってきております。患者の自律(自立)支援と医療体制整備を課題として、シームレスな移行期ケアが求められています。さらに2021年9月には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、より包括的なケアが求められています。本大会でも移行期医療についてもメインテーマの一つとして取り上げ、西澤正豊先生にノーマライゼーションについて、小児科医でもある自見はなこ参議院議員に移行期医療について特別講演をいただき、移行期医療の現状と今後につきシンポジウムでディスカッションいただく予定としています。
時代の変遷の中で、もう一つの大きな変化として、自己決定権の尊重がより強調されるようになり、ACPという言葉もあちこちで聞くようになりました。しかし、「安易なACP」が横行しているような危惧もあります。特に一般の方には馴染みのない難病分野においてこそ、真の自己決定のためには協働意思決定が必須であると考えており、本大会のテーマを「チームで支える協働意思決定 Collaborative decision making by multidisciplinary team」とさせていただきました。チームで対応することの意味を体感していただきたく全員症例検討会を企画しました。新たなネットワークを築くきっかけにもなるように、すべての大会参加者に参加いただいて行いたいと思っておりますので、積極的なご参加をお願いいたします。
今回のコロナ禍での開催でなければ皆様をお迎えして大(仮装?)懇親会を開きたいと思っておりましたが、まだまだ医療関係者には厳しい状況が続いておりますので、断念せざるを得ないと判断いたしました。その代わり情報交換会では音楽死生学士の先生によるご講話と演奏をいただくことになっております。追い立てられる毎日を送っている私たちを癒していただけるものと思います。
日本の難病医療は世界の中でも特筆すべきものがあります。欧米先進国の多くの難病対策が創薬に限られている中で、日本は昭和47年(1972年)難病対策要綱の策定で始まったときから、長期の療養で苦しむ方を治療費助成制度で経済的支援を行ってきました。難病医療は社会保障の縮図であり、経済状況に関わらず必要な医療・ケアを受けられる体制整備はノーマライゼーションの観点からも今後も貫くべきものです。
第10回大会という節目を迎えるにあたり、これまでの成果を再認識し、いろいろな意味で困難な状況を迎える日本における今後の難病医療について考えるきっかけを提供するものとなるとともに、皆様のネットワークをさらに広げるお役に立てれば幸甚であります。
ハイブリッド開催のため、現地でもWEBでも参加いただけます。オンデマンドの事後配信もする予定ですので、どうぞふるってご参加くださいませ。副大会長の浅川孝司とともにお待ちしております。
第10回日本難病医療ネットワーク学会学術集会
会長 荻野美恵子
国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター・脳神経内科教授
国際医療福祉大学市川病院神経難病センター長・脳神経内科部長